8月12日,通信傍受法が可決,成立しました。いわゆる盗聴法です(法案全文はこちら)。この法律の是非や,参院本会議での野党の牛歩・牛舌戦術,議長の職権による投票時間の制限などについてはここでは触れませんが,メールのプライバシー(機密性)について少し考えてみたいと思います。
何を盗聴するのか?
この法律,テレビ等でも大きく扱われているのでご存じだと思いますが,組織的犯罪対策関連三法案の中の1つで,組織的犯罪の捜査で裁判官の傍受令状に基づき通信傍受を認める法律です。
ところで傍受する「通信」とは何を指すのでしょうか。法案の第二条で「通信」について定義しています。
第二条 この法律において「通信」とは、電話その他の電気通信であって、その伝送路の全部若しくは一部が有線(有線以外の方式で電波その他の電磁波を送り、又は受けるための電気的設備に附属する有線を除く。)であるもの又はその伝送路に交換設備があるものをいう。
電気通信で一部が有線であれば「通信」に該当するようです。電話やファックスだけではなく,インターネットを利用した通信も該当するのです。
インターネットを利用した通信といえば,最初に思いつくのは電子メールでしょう。しかし電子メールだけではありません。インターネットを利用した電話やテレビ会議なども使われています。またホームページにある掲示板に書き込んで情報を交換することも通信に該当するのかも知れません。これらすべてが盗聴の対象となる可能性があるのです。
どうやって盗聴するのか?
国会では主に電話の盗聴について審議されたようで,インターネットを利用した通信の盗聴についてはほとんど審議されなかったようです。従って,インターネットを利用した通信の具体的な盗聴方法についてはあまり明らかになっていないようです。
盗聴方法としていくつか考えられる方法があります。まず電話と同じ方法です。自宅からモデムを使ってインターネットを利用している場合などに利用できます。盗聴対象の人物が使う電話を盗聴します。モデムが送受信する音声(ピーヒョロロローガーというように聞こえる音)を盗聴し,それをパソコンなどで解析します。
会社で使っているパソコンにはモデムが付いていない,という場合があります。この場合,各パソコンは会社のメールサーバ(メールを管理している大きなコンピュータ)にケーブルで接続されています。このメールサーバがインターネットに接続されているので,各パソコンにモデムがなくてもメールを使うことができるのです。
この場合は,メールサーバが送受信するデータを盗聴する方法が考えられます。しかし,メールサーバが送受信するデータには,その会社の社員宛に送られてきたすべてのメールの情報が含まれています。従って,その会社の1人の社員の通信を盗聴しようとしても,すべての社員の通信が盗聴されてしまう可能性が考えられます。
これは,個人が自宅からモデムを使ってインターネットを利用する場合にも当てはまる場合があります。モデムが電話をかけるのは,利用者が契約しているインターネットサービスプロバイダのメールサーバです。このメールサーバがインターネットにつながっているのは会社の場合と同じです。従って,このプロバイダのメールサーバが送受信するデータを盗聴する可能性も考えられるのです。その場合,あるプロバイダを使っている誰かが盗聴の対象となれば,そのプロバイダの利用者全員のメールが盗聴される可能性が考えられるのです。
メールのプライバシー
先に書いたように具体的な盗聴方法については明らかになっていません。ここに書いた内容も,あくまで可能性がある,という範囲を脱していません。プライバシーをしっかり守りながら必要な盗聴を行う,という方法で盗聴が行われることでしょう。
しかし,いずれにしても,自分が使っているメールはどのくらいプライバシーが保たれているのか,どの範囲の情報までならメールで送っても大丈夫なのか,ということについて,普段から関心を持っておくことが重要です。
この法律に関係なく,非合法にメールを盗聴している人がいるかも知れません。少なくとも技術的には何通りもの盗聴方法が考えられるのです。
関連ホームページ
インターネット「盗聴法」国会
民主党が運営しているホームページ。法案は成立しましたが,正しく適用されるようがんばって欲しいです。
JCA−NET
インターネット、コンピュータを市民運動の道具として活用していくことを支援する,通信NGO。ネットワーク反監視プロジェクトのページに,盗聴法案に関する詳しい情報があります。
朝日新聞 特集のページ
通信傍受法に関する特集のページ
YAHOO 通信傍受法リンク
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1999.8.16 Reported by 大坪和久